シッポノリンカク

映画好きで絵描き好きな曖昧模糊な記憶。又は、自由闊達な解説。或は、落書き。

自転車に乗ろう。:グランドフィナーレ

 

※以下ネタバレ注意です。

“グランドフィナーレ”はスイスの高級リゾートに宿泊するセレブ達を描いた作品で、ゆったりとした時間の流れる映画です。

 

初めに抱く印象は圧倒的な映像美です。高原の鮮やかな色彩から清涼感が伝わってきます。遠景に映り込む白い山肌が高原の涼しさを想起させ、湿度の低い涼しい空気を感じる様です。

次いで、絶妙に図られた構図と陰影に興味を惹かれます。原題の“YOUTH”の表す若さの意味と対照的に、老い衰え弛んでしまった躍動的ではない人々の肉体が、美しい造形物のように映し出されます。構図と陰影の妙です。

更に、劇中に流れる音楽がとても心地好く、その映像美に緩やかな時間を演出します。

 

主要な登場人物達は悩みを抱えて日常を過ごしています。時に人々は秘かに刺激し合い、時に穏やかな自然の中で心を解きほぐしていきます。

現役引退した指揮者と現役中の映画監督のおじいちゃん2人の友情が印象的です。宿泊客を観察して小さな賭け事にしたり、草原の広がる坂道を散歩しながら些細な日常を会話したり、互いが恋した女性の事に探りを入れたり、気さくな2人の関係が伝わってきます。

そんな2人が昼間の散歩をした出来事です。タンポポの花が風で揺れる坂道で自転車に乗った少年とすれ違います。少年は自転車の前輪を浮かし、軽快に坂道を下って行きます。軽やかな重心移動とスピードで片輪走行を実現しながら過ぎ去っていくのです。

その事をきっかけに、現役映画監督は自転車に乗れた瞬間を語り始めます。そして、現役引退した指揮者は有頂天になりブレーキをかけ忘れ、転倒した事を語るのです。

的確に2人の心象を反映した会話です。若さと自転車に対する連想が、それぞれの過去と現在を浮き彫りにしてしまった様に感じます。

自転車は速度を失うと転倒してしまう。自転車の速度が若さでもあると伝わってきます。

そして、未来へ向う2人への警告を描いている様にも思えてきます。エンドロール中に、このシーンを真っ先に思い出しました。とても印象的なシーンです。

 

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↑中学生男子感の友情がとても良い。

 

夢の描き方も印象的です。若者が体験する夢は、夢を描いていると鮮明です。CGで描かれた違和感を意図的に演出した夢だからです。現実と乖離した表現です。しかし、老人の夢には違和感がありません。それは、とても幻想的な世界観で、白昼夢なのか、心象風景なのか認識に困惑します。夢は現実との地続きなのか、過去の中で生きているのか曖昧な老人の意識を描いている様に感じます。

 

そして、2人のおじいちゃんは肉体造形の美しさから若さを感じ、神に出会った気持ちが生まれます。このシーンはサントラのジャケットにもなっています。この2人には象徴的なシーンなのだと思います。劇中の音楽も素晴らしいので興味がある方はサントラもチェックしてみて下さい。

 

劇中後半、映画監督のおじいちゃんは白昼夢(かな?)で、たくさんの過去を同時に体験してしまいます。その過去の正体は、若さではないかと思います。そして、その若さが遠い所にある事に気付き、受け入れてしまった。

その場所は友情を育み語り合った坂道です。棒立ちになる彼の背後に感じるタンポポの綿毛が切ないシーンです。

 

この映画で描かれている若さの本質とは、肉体なのでしょうか、精神なのでしょうか、又は肉体を経由する意識なのでしょうか。

若さは外の世界から取り込む事が出来るのだと感想を抱きます。

誰かが健気に生きている。ただその事を感じる事で、若さは肉体に宿るのだと思います。それは私生活の周辺でも感じる事ができます。芸術で誰かの感性に触れる事。身内や知人の喜びや成長、出世。誰かのSNS更新から感じる好奇心からも感じる事が出来ます。

ささやかな日常に、若さを感じる事の出来る絆はあるのだと気付かされます。

 

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↑カゴの鳥を背景に、外の世界にある若さを悟るシーンが心に沁みます。

 

肉体は衰えではなく変化なのだと指揮者のおじいちゃんは気付きます。

 

その後、楽園のように穏やかな環境で、それぞれ心の機微を感じ、それぞれのグランドフィナーレへと続きます。

これだけ語ったのですが…何も考えないで映像と音楽にトロンと浸れる映画です。リゾート客として、スイスの高原を仮想体験する鑑賞方法はいかがでしょうか。