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シッポノリンカク

映画好きで絵描き好きな曖昧模糊な記憶。又は、自由闊達な解説。或は、落書き。

青いリンゴの幸福感:紙の月

社会

こんにちは。

 今回は映画〝紙の月〟のあらすじと感想を独断と偏見で、イラストと共に語りたいと思います。

 

 では、ここから作品のネタバレ注意です。

 

与える喜び

 讃美歌の流れる校舎の夕方。少女は机にお札を広げている。その机の傍らには、少年が笑う写真。その少年の頬には火傷がある。笑顔の喜びと火傷の痛々しさのコントラストが印象的だ。

 それらの全ては夕日に照らされ美しく見える。

 

ゴメンね。ケチって安い方買っちゃった。

 灰色のコートに身を包み出社する、感情の機微が感じられない女性。梨花は真面目な外回りの銀行員である。

 その梨花がお客様の家で孫の光太と初めて出会う。

 ある日、梨花契約社員になった記念にと、夫にペアウォッチをプレゼントする。その時見せる梨花の笑顔が印象的だ。二人に子供は居ないが幸せに見える夫婦である。しかし、夫の喜びは彼女の求めている質を違える。夫が背を向けた時、梨花はどこか満たされない顔を見せる。

 

向こうはパワーあるよ。

 帰宅の電車の中で、梨花は追い駆けてくる光太の視線に気付く。電車を降り、若い男の視線が気になり振り返って確認してしまう。しかし、そこに光太の姿は無く、梨花の横を電車が通り抜ける。

 その後日、ホームで光太の視線に気付く。梨花はそれとなく光太に近寄ってしまう。そうして、二人の関係が始まる。若い欲望に梨花の心が潤ってゆく。強く求められる彼女に、与える喜びを感じる。

 梨花は恋をする事で変わって行く。服装は明るくなり、退社の時間を気にして、口紅を塗る。彼女の日々が充実に満たされる。

 光太の借金を知り、梨花は横領を働いてしまう。与えたい人が居て、与えたい物がそこに在る。横領が出来る状況が整う。そして、梨花は与える喜びを求めてしまう。

 そうして、夫との海外赴任を断り、光太との快楽に溺れ、横領がエスカレートしてゆく。

 

受けるより、与える方が幸いである。

 与える喜びは梨花の学生時代まで遡る。学生達は助けを必要にする子供達に、おこづかいを分け与える寄付を始めた。

 

 梨花は光太の愛の裏切りを知る。逃げ込んだ自宅のリビングは横領の機材と資料で散らかっている。かつて、夫と平穏に暮らした空間は混沌としている。欺瞞を築き上げた部屋。

 あっさりと、光太との愛はおしまいになる。梨花は与える喜びを失う。

 そして、勤続年数25年の堅実な女性の隅が梨花の横領を調べ始める。

 

使って楽しめ。って

 学生時代の寄付に対するお礼の手紙には感謝と写真が添えられていた。初めは喜びながら寄付していた学生達は次第に寄付に関心を失ってしまう。その事に対し、梨花は盗んだ金で寄付をしてしまう。みんなの分もと大金を一人で寄付してしまう。

 

 横領が発覚して、梨花は隅と惨めさについて語り合う。梨花は助けを求める者が惨めであると、隅は制限して生きている事がと立場によって意味を違える。

 助けを必要とする者は惨めだから、施しを与え喜びを感じる。ならば、それは優越感による喜びだろう。上の者が下の者に対する行為だ。虚栄心からの偽善だ。

 制限している者が惨めであるのならば、その場には無言の圧力が生まれる。厳格に生きた成れの果てがそこに存在する。模範にはならず、尊敬も生まれない。隅の同僚に責任感が生まれない原因の一つがそこにある。そして、不正を生む温床が育まれる。

 厳格な誠実さゆえに異なった二人の結果がそこにある。そのコントラストの中に生きる喜びとお金の価値が浮き彫りにされる。

 

「なんで?どうして月が消えるの?」 「偽物だから。」

 

 隅はお金で自由になれない事を梨花に諭す。

「アナタが行けるのはココまで。」

 その言葉に反応して梨花は立ち上がる。窓に椅子を投げつける。破壊音と共にガラスが割れ、外への空間が広がる。キラキラと光り、キレイな音を鳴らし落下してゆく細かなガラス片。建物中に鳴り響く警戒音。

 逃亡を図る梨花の腕を隅が掴む。梨花は振り返り、二人は目を合わせる。梨花の口が開く。

「一緒に行きますか?」

 外からの風が二人の髪をフワフワと揺らす。

 そして、隅は立ちつくし、走り去る梨花を見ている。全力で走り去る梨花に心の解放を感じる。夫から与えてもらう事よりも、若い欲望に与える喜びを感じた梨花は走る。

 

何処から来て、何処へ行くのか。

 お金が動く時、人の心も動く。そして、その周囲の人々の心も動く。

 梨花は与える事で喜びを感じた。もし、与えられる事で喜びを感じられる事があれば、与える事の優しさに気付く事ができると思う。

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 与えられる事で心が動き、前向きに生きる事が出来れば幸いだ。そうした経験が、目の前の人に相応しい事は何かと考え、与える事が出来るのだと思う。

 お金は、人それぞれに価値観が違うから、怖いモノだと考えさせられる映画でした。