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シッポノリンカク

映画好きで絵描き好きな曖昧模糊な記憶。又は、自由闊達な解説。或は、落書き。

めがねとじゃぽにか:円卓 こっこ、ひと夏のイマジン

 

以下ネタバレ注意です。

 

 映画“円卓 こっこ、ひと夏のイマジン”は未知に対する喜びと戸惑いにあふれている。

 初めて知る言葉のリズムに好奇心をくすぐられ、希望が広がっていく。世界に知らない事があるというだけで幸せを感じる。

 しかし、その喜びは都合の良い想像の域を出ないためだ。その本質を知らず喜ぶ事が他人の悲しみと知り、語り合える友人の存在に感謝する。

 そんな素直な感情に憧れを抱いて、かつて宿っていた感情を取り戻したくなる。

 

うっさいボケ。

 眼帯に憧れれる小学3年生、こっこ。眼帯には彼女を刺激する個性があるのだ。

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 初めて聞く個性的な言葉に興味を示し、ジャポニカに書き込む。その文字は力強い。そのジャポニカの初めのページに書き込まれている言葉は“こどく”である。健康優良児の憧れる儚さがそこにある。

 こっこは大家族の末っ子である。公団住宅に住み、円卓にて家族の食事が行われる。

 隣の部屋に住むメガネ男子のぽっさんとは同じクラス。いつも一緒に登下校し遊ぶ友達だ。

これが、…命なんですぅ。

 学級会議で、こっことぽっさんは生き物を飼おうと企てる。公団住宅では生き物が飼えない為に二人は結託するのだ。クラスを納得させようとぽっさんが戦略を立案し、こっこが演じる。ナイスなコンビだ。

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 しかし、こっこの熱演は虚しく説得にいたらず、学級会議は飼う飼わないと混乱におちいる。その混乱を鎮めようとつとめる学級委員のパク君は、パニックから不整脈を起こして倒れてしまう。クラスの皆はパク君を心配するが、こっこは不整脈に憧れる。

 その後、こっこはジャポニカの紛失に興奮してしまう。「パニックや」の野次をキッカケに不整脈を演じてしまい、担任に優しく間違いを諭される。こっこは困惑してしまう。

 パク君の死の恐怖に対して、こっこは死に憧れる。

なんでじゃ。

 月の欠けた夜。こっことぽっさんは公共住宅の広場で語り合う。傍らでこっこの祖父はそれを伺う。

 こっこは自分の感情を共有できない困惑をぽっさんに打ち明ける。ぽっさんは相手の立場から考える事を伝える。祖父は前向きに悩む幼い2人に、想像する事“いまじん”を伝える。こうして、いまじんを心にこっこたちの夏休みが始まる。

 印象的なシーンだ。こんなにも相手の心に寄り添いながら言葉を紡ぎ合う優しさに憧れる。以前より彼らは、いまじんしている事に気付いていない。

はなしかけんといて。

 こっことぽっさんは夏休み中いつも一緒に行動する。自由制作に励み、学校のウサギの散歩に励む。生き物を飼えない憧れはウサギに向かう。広場で花火も楽しむ。

 そんな夏休みにぽっさんが連泊で墓参りに行き、こっこは1人で過ごす。こっこに憧れた孤独が訪れる。しかし、ある事件がこっこの孤独を深刻にする。

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 この時のこっこには“こどく”を書き込んだジャポニカは必要ないものになるほど孤独だ。そして、こっこの変化を見守るぽっさんのいまじんは優しい。

かっこええなぁ。

 ある日の夕暮れ、こっこはぽっさんに孤独に至る事件を打ち明ける。

 ぽっさんのいまじんは悲しみにあふれて止まらない。後悔と不甲斐無さでいっぱいになる。

 そして、こっこは前向きに手をぽっさんに差し向ける。こっこのいまじんも優しい。

 この夕暮れの奇跡は感動的だ。

 

 いまじんは知識より思考の大切さを伝える。こっことぽっさんにいまじんという視点がはっきりと生まれたことで、世界はゆっくりと装いを変える。周囲の強い個性から影響を受け、自身との違いが他人をおもいやる事へとつながる。他の個性を学ぶ事で自身の個性を知る。喜びや悲しみを共有して、いのちのあたたかさを知る。世間に対して漠然と対応している事にも疑問を抱く事で、その本質を理解しようとする優しさが生まれる。いつしか、こっこたちの視点で一喜一憂している事に気付く。

 

 全体的に暗く強いコントラストや、違和感のある遠近感と色相などが作品全体を回想劇のように思わせる。ぽっさんが思春期を憂うシーンから、こっこが誰かに語っているように連想してしまう。

 視点を変え、楽しい夏の日々に強烈な懐かしさが加味される映像だと気付いた時はとても悲しくなった。

 思春期のこっことぽっさんの続編を期待したい。思春期をむかえたこっこがぽっさんに抱く感情の本質を探求する話が観たい。すごく、おもしろそうだ。