シッポノリンカク

映画好きで絵描き好きな曖昧模糊な記憶。又は、自由闊達な解説。或は、落書き。

翠玉眼の品定め

今週のお題「犬派? 猫派?」

 

 どちらかと問われれば猫派である。微妙な差で猫を選ぶ。犬も好きだ。

 責任感の無い事に自覚しているから、いきものを飼う事をしていない。知人宅では犬や猫を飼っている家がある。それでも犬よりも猫との出会いが多い。すっかり野良犬が減り野良猫との出会いが増えた。

 シャムネコの様な野良猫との出会いがあった。

 昼間、ふらりと近所を散歩して目に止まったネコがいた。スラリとした背筋とグレーの毛並が明るいネコである。シャムネコだろうかと思った。そのネコの顔と手足は黒いために胴の明るさが強調される。腰から首へ伸びる背筋が異様に長く美しい。その首元にあるべき首輪をしていないから、野良猫だろうと判断した。

 美しい。どうしても間近に見てみたい、ゆっくりとネコに近づいていた。ネコもこちらに気付き、目と目が合いながら歩む。黒い顔に埋もれた澄んだ緑の瞳が印象的だ。エメラルドグリーンだった。シャムネコの瞳はサファイアブルーらしい。だから、遭遇したネコはシャムネコではなかったかもしれないが、その高貴な背筋はシャムネコの様だった。エジプト王室で飼われるネコの血筋を持ち合わせている様な瞳だった。

 距離を縮めるにつれてグレーの毛並が、薄い茶色である事に気付く。陽光の反射の具合の為だろう。同時に黒い顔と手足も濃い茶色である事に気付いた。

 エメラルドの光に見つめられ、心を透かされいるようだが心地良かった。ネコの瞳は実に雄弁だった。日常の雑音が掻き消されて、静かな時間が流れていた。

 不思議な魔力を持った猫に認められた様な気がした。しかし、神秘体験は刹那に消える。ある一定の距離を詰めた時に魔猫は消えた。そこには見慣れた風景の中で間抜けに息を殺した私が居た。とっさに誰かに見られてはいなかったかと気持ちが焦る。あまりにも間抜けすぎる。

 その刹那はネコの野生が発露した時であった。鳴声を上げる事なく静かに、そして素早く身をひるがえし走り去ったのだった。

 それから、何度かそのネコに出会ったが見つめ合う事はなかった。最近では出会う事もない。思い出して、急に寂しくなった。

f:id:kimerateiru:20160324211912j:plain

  猫に認められる事が喜びである。猫は物静かに人間を観察する。その人間が自身に、そして飼い主に対して、ふさわしいかの品定めをしている。すとん、と膝に乗ってくる猫が大好きだ。