シッポノリンカク

映画好きで絵描き好きな曖昧模糊な記憶。又は、自由闊達な解釈。或は、落書き。

道程の道標への事:ザ・ウォーク

※以下ネタバレ注意です。

なぜ絵を描くのか。なぜ歌を歌うのか。

なぜそんな絵を見せるのか。なぜこんな歌を聞かせるのか。

芸術表現とは理解されなければ狂気の沙汰です。

たとえ理解されなくても描きたいから描き、歌いたいから歌う。その衝動は直感的で、喜びの増幅が心の中に在るからです。

そして、その芸術活動の結果から共感した人々は、時に勇気を貰い時に憧れを抱くのです。

 

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1974年の事件を描いた映画“ザ・ウォーク”の主人公フィリップ・プティの行動は狂気の沙汰です。その事件とは、当時世界最高のビルで有名なワールドトレードセンターのツインタワーの間にワイヤーロープを張り、その上を命綱無しで渡り歩いたのです。その高さ411m、その距離42.67mです。想像するだけで内臓が縮みます。しかも、無許可です。犯罪行為です。無許可ゆえに決行はぶっつけ本番でトラブル続きのてんやわんやです。観ていてソワソワしてしまう。まるで一緒に犯罪の片棒を担いているような気持ちが湧いてきます。

しかし、そんな狂気の沙汰と知りながら、その行動に宿る情熱に感動してしまいます。

そして、綱渡りをしながら変化する彼の素直な喜びに感動しました。

 

この時代の経済と技術の結晶がワールドトレードセンターのツインタワーです。綱渡りの喜びが体中に染みこんだ男が、このビルに魅了されてしまうのは当然の反応だったのだと思います。それは、美しい異性に魅入ってしまう一目惚れの恋に似ています。その恋とは新しい自分への希望なのかもしれません。その美しさの為なら苦労や努力は喜びに変わってしまう。身体の疲労感が麻痺してしまう程の歓喜の時間と揺り戻しの不安な感情。

そして、彼を支え、見守った仲間が最高の綱渡りを決行させた。

 

ある朝突然、高層ビルの間を誰かが空中歩行している光景が現れる。宇宙法則の欠陥なのか、超現実の光景が頭上に広がっている。とても感動的な出来事だと思います。ビジネス街を慌ただしく歩く沢山の人々が足を止めた。その人々が高層ビルの谷間から視線を上空へと釘付けにしていた。ある人は歓喜の声を上げ、ある人は不安の声を漏らす。それほどまでに人々の心を揺さ振った出来事だったのだと思います。

 

フィリップ・プティの衝動が力強い行動力を生み出し、人々が惹きつけられ巻き込まれる熱量に感動した映画でした。

改めて、表現への衝動は尊い心情だと思います。芸術活動とは人の生きた証です。これまでと、その時の感情の結果です。作品そのものに価値があり、そこへ至る過程は伝えるべきではないという考え方があります。苦労や努力を押し売りする事になってしまうからです。

しかし、表現に対する想いを知りたいと私は思います。作品に対する印象が変化してしまうとしても、表現者の衝動に強く惹かれるのです。