シッポノリンカク

映画好きで絵描き好きな曖昧模糊な記憶。又は、自由闊達な解説。或は、落書き。

メガネより彼岸の景色:カルテット第2話

 

※以下ネタバレ注意です。

TBS火曜ドラマ“カルテット”の2話目に登場する別府君の個性が爆発しました。

 

カルテットとは、弦楽四重奏の事です。主に1st、2ndヴァイオリンとヴィオラとチェロの楽器で構成されます。それぞれ楽器の個性の音色が共鳴して1つの曲を奏でます。

ドラマの舞台は冬の軽井沢です。色々と訳ありそうな男2人女2人が出会い、カルッテトを組み、共同生活を始めます。彼らは葛藤の末に、コンサートホールを合わせ持つ近所のレストランで、演奏活動を始めました。ここまでが1話目の大筋のお話です。

 

そのカルテットの1人が別府君です。彼女いなくて32歳、丸メガネの別府司。別府君と同僚の結衣は、2人きりでカラオケボックスへ行く間柄です。2人で同じ歌を歌います。しかし、恋人未満の関係です。でも、なんとなくお互いが、お互いの気持ちを知っていそう。

仕事帰りにカラオケボックスで落ち合う2人。歌の合間に、結衣は多分結婚する事を別府君に告白する。そして、挙式での演奏を別府君達のカルテットにお願いする。

 

このドラマで度々目にする奇妙な光景が楽しいです。駐車場に置き去りにされるカーリングのストーン。適材適所、場違い、素っ頓狂な様子を連想します。ストーンは氷を滑る持ち手の付いた重い石です。アスファルトの上なので滑り、前に進む事が出来ません。もし、タイヤならコロコロ転がって前に進めるのです。

更に、コンサートホールでヴァイオリンを練習する女性と、その演奏に見惚れる銀色の宇宙人に仮装した男。その男に気付く女性。未知との遭遇です。

その他にも、計画性も無く室内に七輪を持ち込み、煙幕の中でチャーシューを炙る大人達。放り投げられる“人魚対半漁人”のDVD。フライドポテトのジェンガ。などなど、見た目のインパクトと共に、意味なさそうでありそうな映像の数々です。次々と楽しい演出を期待してしまいます。連想ゲームをしながら鑑賞すると、更に楽しめるドラマです。

 

ある日、演奏の為に4人はレストランの楽屋に集まります。そこへ、レストランを経営する谷村夫婦が訪れます。夫は恰幅の良い、髭面強面の男性。でも優しい目の方です。コックの服装に緑色のダウンベストを着て、2人でデコポンを差し入れに来ました。妻の体型は細い。白いVネックのニットを着た清楚な雰囲気のある女性です。爽やかな表情が印象的です。演奏の演出の為に別府君に声をかけます。

妻は両手に持つデコポンを別府に渡し、資料を手に椅子に腰かけます。そこへ別府君は彼女の右側後方から腰を曲げて資料を覗きこみます。両手にデコポンを包みこんだままの姿勢です。

彼女は真剣な表情で資料を使い、別府君に演出を説明しています。別府君も彼女に同調する様に真剣に資料を覗きこみ要点を理解していきます。しかし、刹那に別府君の目が泳ぎます。そして、その時から視線はその一点に固定されてしまう。

そんな彼の異変に気が付かず彼女は一通り説明を終え、別府君の顔を見上げ、演出内容を確認します。再び別府君の視線は泳ぎ、彼女の顔を確認します。

 

ついに別府君の個性が爆発します。次に放つ彼の一言が、その空間に居る仲間の生気を失わせ、夫の感情を揺さ振ります。彼女の説明に対して、彼は「いえ…イイと思います。谷間さんの案で」と両手にデコポンを抱え、平然と答えるのです。

あら!心象風景をさらりと言っちゃったよ、別府君。観ていてゾクッと彼の不気味さを感じながらも、可笑しさに笑ってしまいました。

あからさまに嫌悪に満ちた表情へと変化する彼女に気を止める事も無く、別府君の個性は爆発し続けるのです。個性の伝爆現象が冬の軽井沢の一室で弾け飛びます。極寒の荒れ地に次々と立ち上る爆煙と轟音、その只中を特撮役者が、明日へ悠々と闊歩するが如くなのです。

別府君は、谷間さんに、谷間さんが、谷間さん的にと、彼女の呼び名を「谷間さん」と力強く責任感を持って連呼してしまうのです。背徳心を責任感で覆い隠そうとすればするほど声に力が入り、周囲との温度差に落差が生まれてしまいます。

 

嫌悪の表情は彼女だけではありません。その場に居合わせた夫、仲間達も苦々しい表情で別府君を蔑視します。そして、夫の殺意にも似た防衛本能が奮い立ちます。

「ママ。ちょっと」と、妻を部屋から連れだす夫。涼しい顔をしてデコポンを両手に抱え続ける別府君。冷めきった表情の仲間達。去り際に、鋭い視線を別府君へ飛ばす夫。

「谷村さん」仲間の一言が別府君の幸せで優しいであろう世界を消滅させます。

「え!?」と放心した別府君に残りの仲間も声を合わせて言います。

「谷村さん!」

「マジか…」うつむいた別府君の視線の先には、両手に抱えたデコポンがあります。おぼろげなオレンジ色が飛び込んできた事でしょう。嗚呼、別府君

 

そして、再び訪れる妻と夫。この場面に可笑しさのクライマックスがあります。

「ゴメンなさい」と作り笑いで妻は夫の来ていた緑のベストを着込んでいる。もちろんベスト前方のボタンは固く合わせてある。細身の体に、大きなダウンベスト。着膨れした様なアンバランス感です。

その妻の後方から夫が歩いてくる。彼の視線は別府君を逃さない。獣の畏怖を忍ばせる目付きは鋭く、冷酷です。今にも飛びかかろうかという威圧感を画面越しに感じます。

さぞかし演奏に集中出来なかったんだろうな、別府君。

まぁ…、その後も別府君は個性を爆発させて、色々とやらかす訳です。ストカー行為をカミングアウトしたり、やや計画的な勢い任せで暴走して、メガネを割ったり。彼の表情の変化が少ない役柄故に、さぞかし心中では一喜一憂しているのだろなと、想像してしまいます。

 

そんな視野狭窄の発作を起こした別府君の演出は後半のシーンでグッと心をワシ掴みします。別府君の大切な人の為に、彼らは挙式で演奏をします。結衣の挙式です。

新郎新婦の退場では、別府君のヴァイオリンソロでアヴェ・マリアを奏でます。

拍手の波間をゆっくりと退場する新郎新婦。顔色を変えずに演奏し続ける別府君。しかし、彼のヴァイオリンから流れる曲は緩やかに変化します。その変化に気付いたカルテットの仲間達。アヴェ・マリアは、カラオケボックスで、二人のクライマックスの出来事で歌った、思い出の曲へと変化していきます。わずかに歩調を緩める新婦の背中。右側の新婦を覗きこむ新郎。その異変に気付かない笑顔の来賓者達の拍手。その奥で演奏する別府君の視線は何処に在るのだろうと思うと切なくなります。

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大人の恋愛は、好きな気持ちだけではどうにもならない事があります。関係性を持続する為に程度な距離を保つ事もあります。それでも時間は流れ、心は変化してしまいます。別府君の誠実で狡猾な足掻きがとても印象的なドラマでした。

さて、運命は何処から来て、何処へ至るのでしょう。この先の展開がとても楽しみです。