シッポノリンカク

映画好きで絵描き好きな曖昧模糊な記憶。又は、自由闊達な解説。或は、落書き。

陽の光を浴びて、:Mr.ホームズ 名探偵最後の事件

 

完全な推理は、何度行っても同じ結論に至ります。しかし、回想は、意識に復元される度に歪められてしまいます。そして、再び記憶される。だからこそ悲しみや恐怖を受け入れ、幸福を膨らませる事が出来るのだと思います。そして、健気な絆が回想する勇気や喜びを与えてくれます。

 

※以下ネタバレ注意です。

映画“Mr.ホームズ 名探偵最後の事件”はシャーロック・ホームズの晩年が描かれています。ホームズ93歳の体力は衰え、記憶も定かでなく、同居する家政婦親子に支えられ生活しています。都会を離れ、海の近い自然の中で養蜂を楽しみながら日々を過ごしています。ホームズと家政婦とその息子の3人暮らしです。

共に暮らすロジャー少年の存在が、衰えたホームズの心を刺激します。そして、ホームズの観察眼や推理力が、ロジャーの若い好奇心を育みます。潮風を感じる大自然の中で描かれる老人と少年の交流が心を和ませます。穏やかな季節の中で、知性の共鳴を感じるのです。

 

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↑ロジャー君はホームズの気弱さにガチギレする。少年の感情が直球で老人に飛んできます。

 

ホームズは曖昧な記憶を頼りに、探偵業を引退に追い込んだ約30年前の事件の執筆に苦しみます。更に、ワトスンがこの事件を小説にした結末の相違に混乱してしまうホームズ。その執筆内容にロジャーは興味を示します。

そんなロジャーの会話や事件の物証をキッカケに、ホームズは記憶を蘇らせます。でも、蘇らせている様に描かれているのかもしれません。ココからは、想像の域を出ない意見なのですが…記憶を蘇らせる回想ではなく、状況を導く推理がホームズの頭脳で行われている感想を抱きました。

 

その推理は現在の自身ではなく、想像力を使わずに事実を大事にする、自信に満ちていた過去の自身が導き出すはずの回想なのだと思うのです。

ホームズの執筆は、事件の根っこに存在する人の孤独や絶望を分析して、事実を突き付ける自身の行動を記録する。その行動こそが人を追い込み、悲しい結末を生み出し、自身を引退に追い込んだ罪の意識の正体だと気付く。そして、この事件を違う結末に描いたワトスンの想像力は、ホームズに対する優しさだった事にも気付く。

ホームズの執筆は人の孤独と優しさに気付く事になります。

 

執筆する事で、事件に存在する孤独を自身の孤独に重ね合わせ、ロジャー親子の存在の大きさに気付いたホームズを感じます。そして、素直にロジャー親子を必要だと告白できるホームズに、弱さを受け入れ前向きに生きる勇気を感じます。

 

その後、ホームズの想像力は、英国で父を失ったウメザキへの手紙に、優しさとして現れます。ウメザキは父の行動の詳細を知りません。

ホームズは、手紙の中で父の心強さや家族愛を語り、父を誇りに思って欲しいと伝えます。その内容は事実ではなく、連想による尊厳なのでしょう。

ウメザキがその手紙を読むことで、家族の回想に喜びが加わる事を願います。

 

ホームズに生きる勇気を与えるロジャーと、生涯を共にした人々へ感謝するホームズが印象的な映画でした。

 

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↑笑顔がチャーミングなロジャー君。少年の素直さが老人に活力を与えてくれる。

 

さて、ホームズの頭脳で行われたのは、推理なのか回想なのか判断できませんでした。思考の迷路にハマって、こんな映画の解釈をした人がいる位に楽しんで頂ければ幸いです。

ホームズは1つのミスがキッカケで、膨張し続ける心の虚無感と向き合って生きてきました。そして、その虚無感と向き合った時間は約30年です。恐らく、数字が表す長さよりも、体感する時間は長く苦しかったと思います。その広大な虚無感の中で新しい自分を形成したのでしょう。

それは、劇中で描かれる広島の様です。日本に訪れたホームズはウメザキと共に、焼土と化した広島で山椒を見付け採取します。モノクロの世界に葉を広げる緑が鮮やかでした。

足掻き苦しみ、真実に辿り着いたホームズ。推理であれ、回想であれ凄い精神力だと思います。

ホームズにその力を与えたロジャー親子との絆や、彼らを育んだ鮮やかな自然に、更に過去の友人達の想いに、世の中の可能性を感じました。

嗚呼、心が疲れたら、のんびりと海水浴や森林浴ですね。