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シッポノリンカク

映画好きで絵描き好きな曖昧模糊な記憶。又は、自由闊達な解説。或は、落書き。

これからも続く物語。その途中で振り向いて、:ベルギー奇想の系譜展

 

木漏れ陽を浴びて緩やかなスロープと階段を上ると、大谷石で装飾された美術館が見える。中庭に在る大きな赤いチューブが印象的なその建物は、宇都宮美術館です。

5月7日まで開催されている“ベルギー奇想の系譜展”に行ってきました。

奇想と形容されている作品の数々はグロテスクやユーモラスある作品です。ベルギーにおいて、15世紀から現代のアートに至る奇想の系譜が楽しめる企画展です。

狂気すら感じる奇想な作品群を鑑賞する事に戸惑いながらも足を運びました。

戸惑い悩むくらいなら忘れてしまえば良いのです。しかし、嫌悪や恐怖を感じる度に、その感情が意識の隅に残ってしまい、怪奇への好奇心が囁きます。実物を鑑賞する機会を逃した事で後悔をしたくない、そんな気持ちも好奇心を後押ししました。

 

美術館へと入り、立体作品が展示されている中央ホールの左右に展示室が配置されています。中央ホールの作品からはユーモアを感じて、恐怖に身構えていた心が安らぎます。

そして、1つ目の展示室へと向かいます。

 

暗い展示室の中には、ダウンライトが照らす幻想絵画の作品群が展示されています。15~17世紀のフランドル美術の作品は圧倒的な描き込みで構成されています。小さな画面の中にミッシリと描かれているのは人間と、悪魔、妖魔、怪物、生物、どんな言葉で表現して良いのか判断できない異形の姿の群れです。その異形な姿にドコかユーモラスを感じてしまい、不協和のコントラストが作品全体に狂気を満たしていきます。地獄絵図、阿鼻叫喚、人の心の闇が具現化された様な作品群の物量から精神的に疲労を感じます。

それは狂気の呼水。そして、意識に浮上してきた“ベルセルク”の蝕。

更に、7つの大罪が描かれた作品もあり“セブン”の回想が始まり、“ドラゴンタトゥーの女”なども回想されました。

展示された作品を細かく鑑賞する度に、恐怖から連想されるフィクションの数々が脳内で復元再生される。作品の恐怖、狂気、不安が心で共鳴し増幅していきます。

デヴィッド・フィンチャーの狂気の片鱗が、意識の闇でカサカサと蠢いては息遣いを潜めている事を感じる。映像作品によって、幾度も地獄巡りをしていたのだと気付かされます。

 

会場に展示されている“トゥヌグダルスの幻視”では、トゥヌグダルスが仮死状態に陥って天国と地獄を巡ります。

絵画の手法で、罪と恐怖を伝える。作品が制作された当時の人々にはショッキングな体験だったと思います。写真すら無く、怪奇現象が科学で証明されて無い時代です。奇想は現実へと変換されて、人の心へも再現されたのです。その時代に生きる人々が抱く奇想への好奇心が、今の時代へと作品を残してくれたのだとすれば、不思議な共感を抱きます。

トゥヌグダルスの追体験のような時間でした。

 

再び中央ロビーへ戻ります。部屋中を拡散する自然光が心地良く、心の闇を退けてくれる。先程の立体作品を再び楽しみながら次の展示室へと進みます。

その展示室では現代へと続くアート作品を楽しめます。奇想は絵画から立体、空間へと表現の領域を拡大していきます。

そして、大きな衝撃体験をします。

 

マルセル・ブロータールスの“interview with a cat”です。この作品は、四畳半程の空間に部屋が再現されています。壁にタイルが貼られ、天井にはシミが広がります。その部屋に流れるのは男性の外国語と猫の鳴声です。聴き慣れない外国語と、ミャウと猫の鳴声が交互に空間を支配します。

突飛な状況に現実感を失います。注意深く聞き入ると、男性の声に感情的な熱を感じ取れます。同調するように、猫の鳴き声にもストレスに似た熱意の加わる変化を感じます。解説資料によると、会話の内容は芸術の表現や価値です。男性と猫が芸術論を繰り広げている様なのです。状況を理解した途端、急激に可笑しさが込み上げてきます。と、同時に爽やかさを感じました。芸術は感じる事を楽しめば良いのだと思うのです。

物事に対する感想は、人それぞれの物語へと吸収されていくのだと思います。それは現実の体験も芸術の体験も同じです。だから、一人一人に物語があり、価値がある。だから、他人の感じ方や価値に興味関心が生まれる。そして、自身の感じ方を確認するために表現をしてみる。その事に他人からの価値が無くても、意味が無い事ではないのだと思うのです。他人を理解する好奇心が世界を広げてくれる。心のままに向き合う事だと思うのです。

 

とても贅沢な奇想の時間旅行でした。この企画展は兵庫展、東京展へと開催の場を移動する予定なので、興味のある方は足を運んでみて下さい。

 

更に、宇都宮美術館では追加料金なしでコレクション展も楽しめます。

特にジョルジュ・ビゴーの作品が刺激的でした。ビゴーはフランス人の画家です。明治時代の日本で活動していました。日本での生活を観察した作品を描き、サムライ姿の写真が残っているフランス人です。歴史の教科書で目にする風刺画も描いた方です。

そんな彼が日本を題材にして描いた油彩画が展示されています。とても新鮮な感想を抱きました。油彩の色彩から、とても柔らかな光を感じます。日本の風情が異国の様に感じられます。陽射が強く、湿度の低い爽やかな風景が伝わってきます。

ビゴーが育った国の空気感で描かれた日本の様に感じた時、彼の物語を感じました。

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