シッポノリンカク

映画好きで絵描き好きな曖昧模糊な記憶。又は、自由闊達な解釈。或は、落書きやネタバレ。

見惚れるダンス:オーバーフェンス

 

※以下ネタバレ注意です。

お互いに少し壊れていて、その壊れた所から相手の壊れた所へ感情を投げ込んで絆を深めて合う、そんな相性のふたりが描かれている。彼らの関係を見守りたくなっちゃう映画が“オーバーフェンス”です。

 

白岩義男の日常は、自転車で職業訓練校に通い、帰り道でビールと弁当を買う。そして、独り静かに自宅のアパートでそれらを消化する。

穏やかな印象の彼の心中は虚無感で満ちている様に伝わってくる。口元は笑っているのに、遠くを見ている。離婚したのに左手の薬指に指輪が光る。

そんな彼の日常に聡が登場します。彼女との出会いは強烈な光景です。昼下がりの街中で鳥の求愛を演じる聡。大きく両腕を広げ、独特のダンスと共に身体を揺らし寄声を上げて愛を表現する。白岩は聡から視線を外せない。

そして、夜の街で白岩が再び聡と出会った時も求愛のダンスを目撃する。真っ赤なドレスを纏った聡は、本物の南国あたりの赤い鳥の様でした。

 

白岩の不器用で純粋な心情表現が切なくも笑いを誘います。

それは訓練校のソフトボール大会の練習での事です。ダラダラとした雰囲気の走塁練習の列に並びながら仲間と会話をする白岩は昨夜の事を回想します。

聡とふたりでお酒を買いに出掛け、うっすらと進展しそうな男女の予感を胸に秘めた白岩は、鳥の求愛の会話をします。その言葉に反応して、上機嫌で求愛のダンスを始める聡。でも、その場所はスーパーの出入口前なのです。

あうぅっあうぅ~。と感情を高める聡を白岩はなだめる事ができない。事態を飲み込めず、冷めた視線で通り過ぎて行く客足と困惑する白岩。熱を上げ続け、我を忘れる聡。交差する人々の感情の温度差に、とてつもない落差を感じる夜の光景です。

突如、スッと聡の熱は下がります。我に返った聡は、白岩に独りで歩いて帰ってとその場を去ってしまう。取り残される白岩。どうしようもなく燻った白岩の熱を感じる孤独です。

そんな回想と共に三塁を駆け抜けた白岩の感情は、ホームベースへのヘッドスライディングとして現れます。ダラリと走塁した仲間達の驚いた視線と歓喜する監督の声、白岩の土煙。たまらないほど切ない温度差を感じる白昼のグラウンドが印象的でした。

 

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その後、白岩は離婚した妻と再会し、その元気な姿を目撃して自身は他人を壊してしまう人間なのだと思い込んでしまいます。だから、少し壊れた聡に惹かれ、少しずつ感情を取り戻したように感じます。聡の所構わず鳥の求愛を表現する壊れた部分に微笑む白岩は幸せそうです。だから、彼女の為に前向きになれたんじゃないかな。

白岩は聡をソフトボール大会に招待して、ホームランを打ち上げようとビニール傘での素振りに人目を気にしませんでした。

 

映画タイトルにあるフェンスを考えてみました。フェンスは、ある範囲を囲う仕切りです。塀でも囲う事はできます。フェンスとの違いは、向こう側の気配を感じ事が出来る事と考えます。

塀は厚い壁であって、目線より下は向こう側を覗く事は出来ず、大きな音を感じる事がやっとです。金網のようなフェンスであれば、向こう側を覗く事が出来ます。この映画から感じるフェンスは目隠しフェンスではなく、向こう側が覗けるフェンスです。音や臭いも届いて来ます。だから、向こう側に行った気になってしまう。その場所を知っている気になってしまう。時間の経過と共に、その環境に慣れてフェンスの存在を忘れてしまう。

でも、その場所に行って感じる事が必ずある気がします。先入観で決めつけた人柄や諦観した未来は、その場に居る気がするから心に芽生える思考です。

フェンス越しに自分の居場所を予感したふたりは、互いに互いのフェンスを何度も破り抜けたり飛び越えたりして理解し合えたのです。フェンスの向こう側を眺め越えようとするふたりの好奇心と勇気が、観ていて楽しくとても心地良い映画でした。

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