シッポノリンカク

映画好きで絵描き好きな曖昧模糊な記憶。又は、自由闊達な解釈。或は、落書きやネタバレ。

メカトピアの翠緑:ドラえもん のび太と鉄人兵団

 

のび太はショックガンを構える。その引鉄の先で少女の背中が反応する。

牡丹色の髪と翠緑の瞳の少女、リルルの口元は振り向きながら微笑む。

ガレキの山脈とフツフツと昇り続ける黒煙、この鏡文字の街の片隅には二人の気配。

映画“ドラえもん のび太と鉄人兵団”のワンシーンです。

子供の頃に観た映画の印象に、このシーンはありませんでした。歳を重ねて観る事で、じんわりと残る切ないシーンです。

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子供の頃に観たこの映画は巨大ロボットのパーツが空から落ちてきて、組み立てる、そんな記憶が強かったのです。

空からのび太の住む街を見下ろす映像から始まります。のび太ドラえもんたち以外にも、たくさんの人が住んでいるのだな。そうぼんやりと思う。

その空から巨大なパーツが落下してくる。のび太ドラえもんは発見したパーツの大きさに困り、無人鏡面世界への入口を作る。そこで巨大ロボットの組み立てを始める。

落下して来るパーツの送り元と届け先を知らないで組み立ててしまう。もちろん、落下してきたパーツはドラえもんの道具じゃない。

大きさ、強さ、速さ、カッコイイものへの憧れは少年の心に芽生えやすいものです。のび太もその少年の一人です。その憧れは、たくましい大人への成長を想像させてくれます。

憧れを手にしてのび太はしずかちゃんを鏡面世界へと招待する。

しかし、憧れの巨大ロボットは兵器の一面を見せます。腹部が開き、高出力の怪光線を放つ。鏡の世界のビルは崩壊し、街並みは一変してしまう。

この憧れは恐怖と表裏一体なのだと伝わってくる。その本質は恐怖での支配が孕んでいる。

その頃から、のび太の街でリルルの姿が目撃され始める。

 

リルルの探し求めるのは巨大ロボットです。それは地球の人間を奴隷化するための侵略兵器。リルルの正体は、ロボットの惑星メカトピアが地球人奴隷化の為に働く少女型先行工作員ロボットなのです。少女の姿は地球人の情報を収集して報告するため。まんまとのび太はリルルにのぼせてしまう。

祖国に絶対的な忠誠心を抱くリルルは地球人を狩る事に戸惑いはない。

鏡面世界でリルルの目的を知ったのび太ドラえもんと共に現実世界へ逃げ出す。追いかけるリルルは巨大ロボットで現実と鏡面世界を無理矢理広げようとして、次元空間接点が大爆発してしまう。リルルは鏡面世界に閉じ込められ、ドラえもんのび太は地球を救ったと大喜びする。

扱えきれない凶暴な兵器は封印してしまえ、無かった事にしてしまえば平和が訪れると描かれている。

 

平和の喜びは束の間。メカトピアの鉄人兵団は地球へと向かう。その事を知ったのび太たちは巨大ロボットを戦力にする為に再び鏡面世界の入口を作ってしまう。恐怖には恐怖をもってと。

その鏡面世界でしずかちゃんは傷付いたリルルを発見する。傷口から電子機器がむき出しのリルルがロボットだと知りつつもしずかちゃんはドラえもんの道具を使い手当てをする。

しずかちゃんはリルルをかけがえのない1つの生命だと直感的に判断している。だから、ロボットだと知り、侵略を企んでいるリルルでもほっとけない。傷付いている生命をいたわらずにはいられない。会話を重ねる事でお互いを理解できるのだと信じている。

でも、リルルにはしずかちゃんの気持ちが理解できない。

のび太たちには凶暴な力の恐怖を描く事で争う事、しずかちゃんには命の尊さを描く事で争ってはいけない事が同時進行で描かれ、その対比から争ってしまう事の葛藤が見えてくる。ラストへ向かってその葛藤を大きく抱く存在がリルルです。

 

リルルはしずかちゃんを欺き侵略本部へと向かう。その途中でのび太と出会い、ショックガンを向けられ、微笑んでしまう。

この微笑みが切ない。リルルは葛藤している。メカトピアの価値観の中で育ち、その教えに背かないよう、人間を奴隷にする理想を成就する立場のはずだった。敵対する人間に攻撃されても介抱されることなどないと考えていた。でも、しずかちゃんはそんなリルルの生命を尊重してくれた。だから、ここで任務遂行できない事に喜びが込み上げてしまった。

しかし、優しさと弱さが入り混じるのび太は攻撃できない。しずかちゃんを救うためなら迷う事無く鉄人兵に攻撃できたのに……。そんなのび太にイラついたリルルは咄嗟に指先から怪光線を放ち、走り去ってしまう。逆討ちを食らい、気を失うのび太。嗚呼のび太……その想い、無念。

その後、リルルは本部でも葛藤してしまい反逆者扱いされてしまう。そんなリルルでも、命懸けでのび太は救出する。だから、リルルの葛藤は重みを増してしまう。

 

鉄人兵団の総攻撃の合間にリルルとしずかちゃんは三万年前のメカトピアで創造主の科学者に会いに行く。過去を変える事で未来をも変えようと考える。未来の顛末を知った創造主は進化の方向を修正する心を祖先に与えようとするが、弱った体がままならない。

リルルが創造主の意志を引き継ぐ。そうする事で地球に襲来する鉄人兵団が消えてしまう事を承知で、それはリルルも消えてしまう事を承知で引き継ぐ。のび太やしずかちゃんたちの間で心を育んだリルルは、おもいやりの心を祖先に与えようとする。

そして、修正は成功してしまう。天使になるの……とリルルは呟き、青白く光りを放つ身体は今から消えゆく存在なのだと理解して微笑む。リルルの葛藤が解放された瞬間です。消えゆくリルルの手を取り合ったしずかちゃんの悲鳴。

自分の存在を否定する事が喜びになるなんてあまりにも切ない幕引きです。

 

最後は再び空から見下ろすシーンが映し出されます。もしかしたら、その視点は天使のリルルかもしれないという気配は、彼女の献身に報われた気持ちを与えてくれました。

 

 

 

じゃあ……初めに映し出される上空からの視点は誰のものだろう。

ひょっとすると、すでに過去を変え、未来にリルルを産み出すキッカケを与える行動をした者が居たのかもしれない。今まで観てきた世界は、幾つかの段階を経て成りたっていたのか……。リルルが生み出される因子を与えるまでが存在理由の何者かが存在していた可能性の余白。その飛行はロボットの浮遊なのかタケコプターなのか分からないけど、街を見下ろす眼差しはおもいやりに満ちた希望ある光景なのかもしれない。