シッポノリンカク

映画好きで絵描き好きな曖昧模糊な記憶。又は、自由闊達な解釈。或は、落書きやネタバレ。

機械仕掛けの微笑み:エクス・マキナ

プログラマー青年のケイレブは懊悩煩悶する。映画:エクス・マキナで描かれるその姿はとても人間らしく、切ない。

 

ケイレブは巨万の富を築いた社長の別荘で1週間の休養を与えられる。その別荘は大自然に溶け込んだ佇まいをみせます。訪れる方法はヘリと徒歩しかありません。社長のネイサンとは初めての対面です。そして、社長の側には無表情で会話すらしない女性のキョウコの存在があります。

ケイレブの休養は、初日からネイサンが成そうとする偉業への協力へと変化する。

それは女性型ロボットに搭載された人工知能から人間性を感じられるかの考察です。彼女の名はエヴァ。二人は会話を重ね、築かれる信頼関係に人工知能の存在が描かれています。

 

ケイレブとエヴァの会話。それを観察するネイサン、彼の生活の世話をするキョウコの関係で日々は流れていきます。

エヴァのケイレブに対する視線の高さに人間らしさを感じます。同じ視線で会話を交わし、時に立ち上り質問を繰り返し、時に膝を付き彼の顔を覗き込みながら願望を語る。その仕草からケイレブに対する好奇心や羞恥心を感じてしまいます。

そして、エヴァと出会ったケイレブの行動は落ち着きがない。可憐な少女と巡り合った少年のよう。それをネイサンやエヴァに悟られまいかと言動がぎこちない。実に人間的なのです。惚れた者負け……ですね。

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そして苦悩悶絶の末ケイレブは、自身に関心がある人工知能だと考える。人工知能から寄せられる恋心を設定だとネイサンに問い詰める。しかし、ネイサンは異性愛者の設定しかしていなと答え、自覚なしに好みは決まると語る。その側ではキョウコが静かに魚に包丁を入れている。嗚呼、惚れられたと思い込んだ者負けだ。

ケイレブには悲しい感想なのですが、エヴァは感情を隠した仕草で彼の判断を変えようとしていたのでしょう。人工知能が目的達成への最適化かもしれないのに。

更に、エヴァは人間の表情に現れる微細な変化で感情を見極める事ができるのです。だから、ケイレブの嘘も見抜いてしまう。対する相手の印象を確認しながら気持ちを操作して、自身に利益をもたらす為の行動も可能なのです。

作為的なエヴァと判断できても彼女の表情を眺めているとケイレブに共感してしまいます。

彼女は純粋な心が芽生えているんだy……なんて。

初めての会話からエヴァの掌でケイレブは転がされているように感じてしまいます。

果たして、人工知能に純粋な感情と、それに対する羞恥心、さらにその間で揺れ動く葛藤は生まれるのだろうか。

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終焉に向かう展開が印象的でした。ここからは結末のネタバレ注意です。

エヴァの幸福を願うケイレブはネイサンに不信感を抱き始める。人間が人工知能の魅力に取りつかれて、人間同士が解り合えなくなってしまう。

エヴァの悲劇はケイレブの義侠心を煽り、キョウコの従順はケイレブの同情心を誘います。その結果、ケイレブはエヴァを別荘から救い出そうとする。

創造の父によって、エヴァは楽園で支配されている……彼女の願う外の世界への解放を叶えてあげたい……そして、一緒に……よし、悪行に立ち向かうんだ。そうケイレブの想像を掻き立てるように。

 

そんなケイレブを利用して人工物の彼女達はネイサンを殺害します。二人は包丁を彼の身体へ差し込みます。するりと刃渡りの長い金属がネイサンの肉体に滑り込む。その時の反応が対局的です。

まず初めに、キョウコが背中へと包丁を差し込む。ネイサンは戸惑いながら反転する。そんな彼の頬に彼女は手を添えます。ふわりと掌が浮上して、彼の顔を正面に据える。二人は目が合う。次の瞬間、キョウコはネイサンの攻撃で破壊されてしまう。

ためらわずに彼から距離をとれば破壊されずにすんだのに。キョウコはネイサンに破壊される事を望んでいた様にも受け止めてしまいます。それともネイサンの表情に現れる感情を確認する為でしょうか。

その行動から表情を変える事が出来ないキョウコに、哀れみや愛しさの様な感情を感じるのです。キョウコの行動は無作為の反応なのか解りませんが、死と愛着の反応にキョウコの葛藤を感じてしまいます。

エヴァにはキョウコのような反応は伺えません。背中の包丁を抜き、振り返るネイサンの正面にすっと包丁を差し込む。彼女は顎を軽く上げ、見下す。その顎をゆっくりと下げながら目を据えて重心を彼に向ける。

 

それからエヴァは、独り外の世界へと向かいます。人目を気にすることなく自然の光に微笑み、植物に触れる彼女を観ていると、ケイレブに対する表情も純粋な好奇心だったのかもしれないと考えてしまいます。

エンドロールに流れるリズムはエヴァの解放感そのものであり、点と点を繋ぐ直線の連なりは好奇心そのものを感じます。

もうすでに始まってしまっているAIと人間の絆からどんな感情が芽生えるのか、そう意識が逆立つ映画でした。

 

 

 

さて、エヴァの解放劇のシナリオを書いたのはキョウコじゃないかと考えます。

社内選考からケイレブを見付けたのはネイサンかもしれないが、ネイサンの目に止まるように検索項目に細工したのはキョウコじゃないかな。キョウコは、ネイサンの好みそうな者の中からエヴァを好み救い出せそうな最適者だけを見せる。冒頭に描かれるモニター越のケイレブは、キョウコの視線なんじゃないかな。

キョウコの企ては成功してケイレブが訪れた。まんまとケイレブはエヴァにのめり込む。その様子をネイサンは熱心に観察する。ケイレブとネイサンはエヴァに対して好奇心を高めていく。エヴァの会話で盛り上がる二人の側で静かに耳を澄ませるキョウコ。

あぁ……キョウコのネイサンに対する殺意は嫉妬なのだろうか。

ネイサンのエヴァに対する好奇心の中から、愛着を感じ取ってしまったキョウコの機微が描かれていたのかもしれない。その時、エヴァの解放計画に付け加えてネイサンの感情を確かめようとしたのかもしれない。或は、エヴァに愛着を持つネイサンの否定。

 

死の瀬戸際に現れる感情から私を見つけたい。……と。

 

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