シッポノリンカク

映画好きで絵描き好きな曖昧模糊な記憶。又は、自由闊達な解釈。或は、落書きやネタバレ。

ファストバックは格納される。

車に揺られていると黒く巨大で直線的なフレームが見える。それは太陽を背に、青空との明暗差が超現実の印象を強めている。

近づくにしたがって人の気配を感じ、それは建物だと気付く。

 

ソウルレッドが欲しい。という知人に便乗してMAZDAショールームに行ってきました。

ソウルレッドとはMAZDA車の特別塗装色で、正確にはソウルレッドクリスタルメタリックという名称です。この塗装の美しさはボディに反射・吸収層、透過層、クリア層に秘められています。人間が色を感じるのは、物質に反射した光線を瞳が感受するためです。この塗装は反射する光束の量で色彩の深みを現し、ボディの曲線を際立たせます。

塗装に当った光は反射・吸収層で光と影へ、透過層の高彩度顔料で鮮やかな赤へと変化して、クリア層は表面に艶をあたえます。

光の鮮やかさと影の深みを際立たせ、透明感のある車体が生まれるのです。

そのソウルレッドの塗装を美しく魅せる、黒を基調としたショールームに行ってきました。

 

北側の道路から敷地へと侵入して、建物と一体化した黒いゲートをくぐり、東側に位置する駐車場へと向かいます。

車を停めるとスタッフの方が車を紹介してくれます。メイン道路に面するショールーム北側に配置されたソウルレッドの群れは圧巻です。スタイルの違うソウルレッドがずらりと並んでいます。同じ色である事が車それぞれの個性を際立たせます。大きさから想像される車の重量感、ホイルベースの長さからは安定感。どんな車が欲しいか直感的に判断できそうです。

 

ショールームの入口は東側に位置します。室内に入ると右側に暗い空間と左側に明るい空間を感じます。

入口から真直ぐ西側に向かうフローリングが明暗空間の境界になります。右側は展示スペース、左側は商談スペースと別れています。その明暗を感じさせるのは床材です。商談スペースは白い床材で、展示スペースは黒く仕上げられています。

展示スペースの北側はガラス貼りで北側からの反射光で柔らかく明るい。ガラスの向こう側にはソウルレッドの群れが背景になる。

床材は500ミリ角くらいのタイルです。反射の少ない黒いタイル敷きが空間に暗さを演出しています。その黒の上には、ソウルレッドが2台存在しました。その天井にはゲートで移動し、角度を自在に調整できるスポットライトが幾つも目に止まる。

足下の闇から浮かび上がる鮮やかな赤の輪郭を縁取るように、繊細な光が曲線を描きます。

車体の低部に闇を、高部に光を演出する事でソウルレッド自体のコントラストを最高のコンディションで表現しています。更に、そのスペースの黒いソファーに腰を落とすと視点が下がり、また違う印象でボディの明暗と曲線を眺める事ができます。

もう、工芸品か現代彫刻の展示会に訪れたような気分です。

明暗の空間に存在するソウルレッドを、この位置この角度から観てくれ!これが最高なんだ!と情熱が伝わる時間でした。

圧倒的な説得力を秘めた明暗差の展示。

ここまでこだわって造り上げたんだと伝わる作品を所持する気分は最高だろうな。

 

華やかな美意識の刺激。でも直感が惹かれるのは、端正な造形に感じる洗練された知性でした。

 

個人的に最高な1台は屋外東側に展示さていたセラミックメタリックのROADSTERのRFでした。

天照り膨れ上がる関乱雲、黒い建物と赤い車両の群れを背景に、車体のメタリックは心を惹きつけます。

黒いBBSのホイルとピアノブラックのルーフがボディとルーフラインの輝きを強めます。ドアの一部内装には塗装部分がある事で外との連続性を演出しています。

シートとハンドル、インパネ部分は黒でまとめられています。シートの縁取りとハンドルの縫い目に使われている赤がたまらなく魅力的でした。

これは贅沢だ。趣味の世界だ。嗚呼、長者になりたい。

そして、座席に身を沈ませると心地好い閉塞感があります。

ハードトップ時の後方ピラーの流れが最高です。ファストバッククーペですね。

購入予定の無い身勝手な好奇心に対して、スタッフの方は嫌な顔もせずルーフを開閉してくれました。

静かに可動するルーフとピラー。その奥で規則的に回転する歯車。ファストバックの格納動作は穏やかです。

ファストバックの印象を秘めたことで、オープンスタイルは可能性の美を予感させました。

 

嗚呼、憂々、憧れが在るのだ。もっと気張れってことか。

東京モーターショー2017で発表されたマツダ 魁の販売版も楽しみです。

 

f:id:kimerateiru:20180831081816j:plain


感性の延長線上にはセラミックを表現したRFが響くのだと感じる。でも、ソウルレッドは今の感性にサナギのような膜を張ってくれるかもしれない可能性を感じました。サナギの中は全てが混然一体に解け合って、新しい造形への感性が生まれるような気配。蛹化する感性。日々の暮らしではありない選択をしてみる楽しみ。

……なんだかもう、購入するかのような気持ちの高ぶりですが、そんな予定はないのが残念です。それでも真摯に対応して頂いたMAZDAスタッフの方に感謝感激でした。

 

さあ、気張ろう。